8章 「パリのスリ」
モナコ最後の朝はパンだけだと知りつつもオテル・ド・パリでしか食べれないからと一昨日と同じ所でまたもの凄く綺麗な店内で朝食を食べさせて頂きました。
大変お世話になったコンシェルジュさんがチェックアウトの時にいらっしゃったので記念に写真を一緒に撮らせて頂きたいとお伝えさせて頂くと
「私で良いのですか?勿論です。
それでは、このツリーの前では如何でしょう?」
と快諾して下さり綺麗なショパール のクリスマスツリーの前で写真を撮らせて頂きました。
車が見えなくなるまで手を振って下さるコンシェルジュさんにスーさんと手を振りながら、またモナコは来たいなーとモナコグランプリの道を通らせて頂いている最中にしみじみ思いました。
3日ぶりの芸術の都と呼ばれる地に着いて全く芸術とは何かを知らない自分はこの機会に少し回ってみたいと思っていました。
先ずは聞いた事があるルーブル美術館に行ってみようと出かけさせて頂いたのですが荷物を預けっぱなしにさせて頂いていたホテルに戻りご飯を食べたりしていたら意外と時間がかかってしまいルーブル美術館に到着出来たのは夕方近くになってしまっていました。
TVでも見た事があった入口となっているピラミッド型のガラスの特徴的な建築物の前で沢山の観光客の皆様と一緒になって写真を撮らせて頂きいざ入館です。
入口のチケット販売の場所でこの時間ですとモナ・リザは混んでいるし見れないと思いますと申し訳なさそうに教えて頂きましたが芸術を理解出来ていない自分には見てもその凄さがとても解らないだろうなと思いルーブル美術館に来れた事が記念になりますし、前回見れなかったとまた来るための理由にも出来ますから問題ないです。とお答えさせて頂きました。
「日本でも美術館は17時とかに閉まりますからこの時間に入れただけでも濱安さんはラッキーです。」
と教えて下さったスーさんも芸術にはあまり関心をお持ちで無いのかパリに何度か来られていらっしゃるのにルーブル美術館に入るのは初めてだそうで不思議に思い聞いてみると人混みが苦手らしく自分のせいで人混みに入らなくてはいけない事になり悪い事をしてしまったと謝ると仕事ですから気にしないで大丈夫ですよ私も1度来たいとは思っていましたと優しく仰って下さり救われました。
ドノン翼とジュリー翼にリシュリュー翼の3つに分かれた途轍もなく広い敷地を持つルーブル美術館は30万点以上の作品があるようで、とても1日で1つずつ見て回りきれる感じではなかったので空港並に厳重な手荷物検査を終えて特にこれと決めずに歩きながら人集りで入って行けそうもない展示品を遠目に見るのを繰り返していましたがその歩いている最中の天井までもがすごく綺麗に思い他のお客さんがあまり撮っていないであろう天井のモナ・リザの写真を自分は撮らせて頂きました。
美術館を出ると辺りは暗くなっていて日が沈んでいるようで、ちょうど美術館のピラミッドらへんがライトアップをされているルーブル美術館に一段と映えて綺麗に見えましたので、これは写真に収めたいなと上手く写る良い場所を探しました。
通行量が多いこの場所は思っていたより綺麗に撮るのが難しく携帯を持ったまま彷徨っていると三脚を構えて一眼レフのカメラを構えている人を見つけました。
こう言った場合はジッと獲物を狙っているように構えていらっしゃるカメラマンさんのスポットは1番良いと思えたので近付かせて頂くとそこはドンピシャの良い写真スポットでした。
勿論その方のカメラと自分の携帯のカメラとでは全然、性能が違うので気にも止めていらっしゃらなかったかも知れません。
それでもその人が見つけたであろうスポットで写真撮るのは、おこがましいと思いスーさんにここで自分も撮らせて頂いて大丈夫でしょうか?と聞いてもらうと頷きウインクで返して下さいました。
綺麗な写真が撮れて嬉しい気持ちになれて有難うと御礼を言うとカメラから目を離され指をさして何かを言われました。
その方向に振り返ると金色の像が闇夜に一段と輝いて見えます。
おそらく、あれは撮ったかい?と聞いて下さっているのでしょうが聞き取れないのでスーさんの訳を待っていると驚いた事に目と鼻の先にあるその黄金の像は何と100年戦争の女性英雄ジャンヌ・ダルクだったのです。
今は軍隊や軍人さんの守護聖人と言う位になっているフランス人の誇りの人の1人だと思える凛とした姿を収めようと沢山の人がその前で写真を撮られていらっしゃいました。
自分も教えて下さったカメラマンさんに御礼を再度伝えさせて頂き何枚か撮らせてもらいました。
夜ご飯をどうするかこの時に決めていなかったのでスーさんに何か良いお店を知らないですか?と訊ねると考えながら何かを閃いたように昨夜のNOBUは美味しかったです。
と言われたのでNOBUのオーナーさんでカリスマ的な人気を持たれていらっしゃる松久 信幸さんがこの年にマツヒサ・パリをオープンなされたのをどこかで見たのかなーと思いホテルのコンシェルジュさんに予約のお願いをさせて頂きに戻らせて頂きました。
その戻りの道中に人が通れない位に行列で溢れかえっているお店があり何だろう?と見てみると日本で何回か食べた事があるメチャクチャ美味しいモンブランケーキのアンジェリーナの本店でした。
ここは絶対に食べたいなと思ったのですが今からはとても並べるレベルの行列では無く入るだけで何十分もかかりそうで、大阪のお土産に蓬莱のシュウマイや豚まんを買われるのに似ている感覚を持ちました。
ホテルに戻りお店の予約をお願いさせて頂くと運良くすぐに取れたのでNOBUを展開していらっしゃる松久信幸さんのマツヒサ・パリが入っているロイヤル モンソー ラッフルズパリ と言うホテルまでタクシーをお願いさせて頂き大きな口笛でタクシーを止めて場所をコンシェルジュさんが伝えて下さいました。
独特の世界観がある少し照明を落とした店内で天ぷらや焼き魚などを食べさせて頂きお腹が落ち着いたところで残り2日しかない旅行の日程を考えてもう一度シャンゼリゼ通りのクリスマスマーケットに行っておこうと決めました。
さっそく食べ終わってタクシーをホテルから拾おうと思いラッフルズホテルの出口に向かっていると見たことも無い長さで吊るされた白い綺麗なシャンデリアがありそれが何本も並んで見える光景にうっとりと見惚れて写真を撮らせて頂く事にしました。
何日かぶりのシャンゼリゼ通りのクリスマスマーケットはお菓子やら銀細工やらキャンドルやら色々な物が販売されていてエッフェル塔も綺麗にライトアップがされていました。
どうやら自分が初日にメダイ教会の後に来たのは時間が遅すぎたようで2度目に来たこの日の方が色々と楽しめる時間帯だったみたいです。
馬鹿の1つ覚えのようにまた、いつ来れるか分からないからと赤いカップにホットワインを片手にむせながらシャンゼリゼ通りを歩き冬のパリを味あわせて頂きました。
ホットワインをなんとか飲み終えてホテルに戻る道を歩いているとすれ違いざまに女性に何かを言われてキョトンとしている自分のカバンを指差して大声でまだ何かを伝えようとしていらっしゃり何だろうと思っているとその女性の言葉に被せ気味に慌てた様子でスーさんが
「何かをいま濱安さんのカバンから取って行った人がいると言っています。
取られたものは無いですか?」
と言うのでバックを確かめると痛み止めなどが入った紙袋が無い事に気付き貴重品を取られた訳では無いから安心して下さいとスーさんとのぞき込んだ自分のカバンを見ながら答えると今度はスーさんが
「あー。やられました。」
と大きな声で言われ何事かと思っていたらスーさんのカバンのファスナーが半分くらい開いている事に気付きました。
ファスナーを開けた犯人は先ほど自分に何か取られたと教えてくれた女性らしくスリは2人組だったみたいでした。
1人がカバンに手をやりもう1人が注意を引いて取られた物を確かめているその隙に何かを取る手口のようで、凄く大胆なやり口に思えました。
心配して何が取られたのか確かめないとと言う自分に取られたと言う事は有り得なく先ほどの女性が手をかけたのが分かったのでとても腹に来ているとの事でした。
「あれだけ警戒していたのに、不覚を取るなんて、、」
と取られる取られない以前に狙われて一瞬でも気をそらしてしまったご自身が許せない感じに思えました。
結果的に殆ど中身の入っていない痛み止めの薬の袋だけ済んだので物の被害は無かったのですが何度もフランスに来ていて警戒しているスーさんのプライドに傷が付いてしまったようで、この日はこの後ムスンとなされていらっしゃいました。
そんな出来事もあり気を張ったせいかホテルに戻ると今度は安心したのかシャワーを浴びる気力も無く部屋の入口から服を順番に脱いでベッドまで何とか辿り着き同時に自分は疲れてこの日は眠ってしまいました。